はじめに読むコラム
こちらの記事は東洋医学の「基礎」となるコラムです、より理解していただくために、まず、はじめにご覧ください。
異病同治・同病異治”とは?
西洋医学ではX線検査、生化学的検査、病理学的検査など分析的手法から得られる情報により診断を下し、病名を決定。それぞれの原因や症状を除去する複数の治療法や薬を処方します。
一方で東洋医学は病人の全人的病態の分析を重視し、その全人の病態に適する統一的かつ総合的な方法により薬の処方などの治療を行います。
具体的には、東洋医学では表面的に現れている症状を治療する標治だけではなく、その大元の根本的な原因を治療する本治(治病求本)という考え方が重視されています。表面的に現れている様々な症状は、一見、無関係のようであっても、元をたどれば1つの根本原因から派生している場合も多いため、本治を行うことで、根本原因から派生した複数の病気を同時に治療することができるとの考え方です。
前述した“弁証論治”のところでも説明しましたように、東洋医学治療は体内外の病態とその原因を“証”と呼び、疾病の本質“証”に応じて治療法や処方薬を決定します。
その結果、西洋医学的には異なる病気や表面上は全く違う症状であっても、例えば、異なる病症の便秘と下痢に対して、特定の証に由来するものであれば同じ治療法や薬を投与することがあり、これを「異病同治」と言います。
一方、同じ病気でもその人の状態や病気を引き起こした原因には様々なパターンがあると考え、同じような病気や症状に対しても、患者によって全く違う治療を行い、異なった漢方薬が使われることがあります。例えば、西洋医学でいう風邪と腰痛という同じ病症を持つ人であっても、証によって治療方法が違い、異なる漢方薬などを処方することを「同病異治」といいます。
実例
実例としては、食生活の乱れから胃腸の調子を崩した患者がちょうど同じ頃から頭痛の症状が出たとします。そこでまず、内科を受診して簡単な胃炎だと診断された際、患者は頭痛もあり、体調が悪いと訴えます。すると内科の医師から知人の脳神経外科を紹介されたとします。ところが脳神経外科から処方された薬には副作用として「胃腸障害が出る恐れがある」との記載があり、この薬を飲むことを躊躇せざるを得ません。このような矛盾した治療は、局所を個別に診る西洋医学では起こり得ることです。
これに対して東洋医学では、もし胃腸の調子が悪くなるのに伴って、頭痛も悪くなることが多いのであれば、両方の症状には関連性があると考え、まとめて一つの“証”に従って治療する方法を探ります。
症状が異なる病気を同じ治療法で治す“異病同治”、あるいは同じ症状の病気に対して様々な治療を施す“同病異治”という言葉が東洋医学と西洋医学の違いを端的に物語っていると言えます。
このようなことから、全身の複数箇所に失調が及んでいる人に対しては、東洋医学あるいは東洋医学と西洋医学を併用し、治療することがよいように思います。
*注釈:ここで「東洋医学」という言葉は「中国由来の伝統医学」のみを指し、「漢方医学」と近い意味を表します。「西洋医学」は現在病院で行われている現代医学のことを指します。
参考文献
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
- 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019