はじめに読むコラム
こちらの記事は東洋医学の「基礎」となるコラムです、より理解していただくために、まず、はじめにご覧ください。
吸(すい)玉(だま)療法
その他の治療法の一つに吸(すい)玉(だま)療法があります。吸玉療法は“体内から体外に刺激を与える”という独特の吸引刺激によって治療を行います。血行促進、リンパ液の循環改善などの効果のほか、ストレス緩和や内臓不調の改善にも効果があります。このため、腰痛や肩こり、便秘などの治療にも用いられています。
東洋医学の治療方法は大きく、外治法と内治法に二分されますが、吸玉療法は按摩や指圧、マッサージ、柔道整復術と同様に外治法に分類されます。
概 念
吸玉とは、今日のような医療も薬もなかった時代に毒を持つ蛇や虫に嚙まれたり、刺されたりした場合やおできなどが化膿してしまった傷などの対処方法として、いわゆる排毒排膿の目的で生まれた器具です。当初は口で毒や膿を吸い上げていましたが、その後、動物の角(つの)が用いられるようになったことから、現在でも吸角(きゅうかく)、角法(かくほう)という名称でも呼ばれています。
さらに吸い上げる方法として火を使う方法が考案され、そのための道具として竹製、陶器、ガラス製の道具が使用されるようになりました。現在でもこの形態で施術されており、使用目的は排毒排膿のみならず、高血圧や肩こりなど多岐にわたりますが、吸着させる方法は数千年前と変わりありません。
効 果
吸玉の効果は大きく3つあります。
1つ目は、血行促進効果です。カップの空気を抜いていくと、内側から外側へと向かう“陰圧”(いんあつ)という吸玉特有の圧が患部にかかります。局所の血管を拡張させることにより、血流が促進され、老廃物を体外に出すことができます。循環が悪くなって生じた肩こり、腰痛、神経痛、関節痛、瘀血などに効きます。
2つ目は、内臓の働きに影響を与える経絡、ツボ、反射区部分の皮膚に吸玉を吸着させることにより、内臓に生じた変調を調節できます。
3つ目は、中枢神経系、ホルモン系の調節です。ストレスの影響によって生じる動悸、頭痛、高血圧、生理痛などにも吸玉はアプローチできます。交感神経や副交感神経へ刺激を与えることで、自律神経を正常化し、その影響下にある諸器官の不調をも改善していきます。
適応症状
部 位 |
適 応 症 状 |
循環器 | 高血圧、神経性狭心症、不整脈 |
消化器 | 慢性胃炎、食欲不振、胃痙攣 |
呼吸器 |
神経性呼吸困難症、感冒 |
運動器 | 肩こり、 五十肩、 腰背痛、頸肩腕症候群、関節炎 |
神経系 |
めまい、不眠、坐骨神経痛、偏頭痛 |
泌尿器 |
夜尿症、間質性膀胱炎 |
婦人科 |
月経困難症、更年期障害、冷え症 |
禁忌事項:急性期の炎症時、心疾患(神経性の不整脈を除<)、重度の動脈硬化、インフルエンザやウイルス性胃腸炎症状の緩解直後、悪性腫瘍、白血病などによる貧血。
主な施術方法
基本吸着法
吸玉療法の基本となる吸引法です。丸いガラス、もしくは硬質プラスチックを施術部位に当て、皮膚を吸着するため、カップの中を真空状態にします。
深部のコリを取るのに適しています。施術後の痕(溢血斑) が残るというデメリットがあります。
WAVE(ウェーブ)法
カッピングバルサーによるWAVE法はデジタル式の圧力調節機能電動ポンプ制御で、-40Kpaから-1Kpaまで圧の変更を繰り返す施術法です。消化管(管空臟器)の働きを高め、リンパ流の促進、局部の代謝を高めます。
スライド法
リンパの流れ、浮腫、組織の方向づけ(フェイシャルなどのリフトアップ)に適しており、溢血斑が残らない画期的な施術方法です。
ただし、施術時間や吸引の強さにより擦過疹程度は残ることがあります。
なお、深部のコリには効果が薄いとされています。
吸玉の形
吸玉の施術方法は「湿角法」と「乾角法」があります。湿角法は皮膚に傷をつけ血を出す「瀉血」を行う治療法ですが、現代では、傷をつけない乾角法が一般的です。吸玉のユニークな形状は、もともと血液とともに毒や膿を吸い上ける湿角法のために作られたもので、血を溜めるための構造が残っています。
現在では乾角法が定着しつつある点と、カップ同士の隙間を空けずに施術ができるメリットから寸胴型の吸玉もよく利用されています。
参考文献:
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 安井廣迪著.医学生のための漢方医学【基礎編】.東洋学術出版社,2008
- 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
- 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019