はじめに読むコラム
こちらの記事は東洋医学の「基礎」となるコラムです、より理解していただくために、まず、はじめにご覧ください。
中医学と日本漢方の現況の違い
第二次大戦後、中国政府は数千年の歴史があり、いくつもの流派に細分化していた中国伝統医学を一つにまとめ、体系化して教育しやすくしました。
これが今日の中医学の礎となっています。中医学は統一体観、哲学観、系統観、恒動観を根拠とし、弁証理論で病証を識別、病状を推論し、治療方法を選び、方薬を組み立てるという一連の弁証論治の過程を持っています。このような独特の系統的な医学理論を介して、現時点で患者に対する最適な処方を組み立てます。診察により処方する生薬の組み立てを考えることは、身体に優しく、患者の苦痛を解決でき、かつ経済的でもあります。その反面、深い知識がなければ上手く使いこなせません。
中国では現代中医学を教育する専門大学があり、その大学で養成された中医学専門医は五年間にわたって主に中医学を系統的に勉強するとともに、西洋医学の全般的知識も学びます。
現代中医学では西洋医学の優れた診断や検査技術などを参考に西洋医学による診断病名に従って、体質状態・臨床症状・さまざまな臓器の機能状態などの違いにより中医学の弁証論治を行います。これは弁証と弁病の結合ともいわれます。
一方、日本漢方では、中国の幅広い領土内に数千年にわたる中医学はたくさんの流派や地方特性がありますので、最初からそれの全部が日本に伝えられたわけではありません。
また、日本の気候風土の違いからくる中国人との体質の相違、さらには生薬の種類や品質にも相違があるため、これらに対応する必要があることから、日本における中医学は日本人に合うよう変更されたところがあります。
伝統的な日本漢方は「証」を診たてるという中医学との類似的な考え方はありますが、その「証」の概念については中医学と異なる捉え方が多く存在しています。
なお、日本漢方は既存の漢方薬を中心に据えた発想で、現在の医薬品として使える漢方薬は主に中国漢の時代の医書「傷寒雑病論」に載っている約200種類の処方にとどまっており、使いやすいものの複雑な病気に対して中医学本来の効果は期待できません。
特に、1976年に本格的に医療用漢方製剤に健康保険が適用されるようになり、一般的に普及し始めると、西洋医学的な漢方薬の使用が目立つようになってきました。
すなわち、漢方医学の持つ本来の体系には関係なく、医療用漢方製剤を一般的な西洋医学の製剤と同じように用いることが盛んに行われるようになり、この方式で診療を行う医師は、1989年に日本東洋医学会が専門医制度を導入して以来、急激に増加しました。
さらに、大学病院を中心に西洋医学的な立場から漢方薬を研究するグループが続出し研究を重ねたことから、この考え方にもとづくものを現代漢方と呼ぶことがあります。
以上、中医学と日本漢方の違いをまとめますと日本漢方の現代科学研究による立証性や明瞭性、エキス剤などの服用しやすい剤型、方病相対・方証相対のような便利な使い方などを尊重するとともに、中医学の理論の深さ並びに対象範囲の広さとを有機的に結び付けることで、さらに質の高い効果的な東洋医学医療を提供することが今日の日本社会にとって、大変、意義深いものになると確信しています。
参考文献:
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 清水宏幸.新しい医療革命―西洋医学と中国医学の結合.集英社,2004
- 安井廣迪著.医学生のための漢方医学【基礎編】.東洋学術出版社,2008
- 栗原 毅/中山貴弘/陳 志清/菅沼 栄/楊 暁波.漢方・中医学がわかる本.宝島社,2016