HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

東洋医学の活用

東洋医学療法の紹介コラム㊸ 気功療法⑳ 気功法の五の二

 

 

太極拳は優れた健身法

 

予防は治療にまさる

 

人間の身体はこの上なく素晴らしい芸術品です。いかなる芸術家もつくることのできない、自然が生み出した傑作といえます。しかし、この傑作も働きすぎれば疲れますし、さらに無理を重ねれば病気になってしまうでしょう。

このことを中国では「病治未然、不治既然」といい、わかりやすく言えば「病気はかかる前に予防することが第一で、病気になってからでは治せるものと治せないものがある」という意味です。現代には進んだ医療技術があるとはいえ、予防は治療に勝るのです。

  ところで、現代の私たちの生活の中で一番欠けているものは、心のゆとりではないでしょうか。私たちは毎日のように、どこにいても人間関係に悩み、時間に追われ、さまざまなストレスにさらされていると言っても過言ではなく、心の余裕を見失いがちです。

また、ストレスをため込んでしまえば、それが原因で、病気にさえなってしまうのは周知の事実です。このような時代に生きる私たちは、毎日少しの時間でも、すべてのストレスから離れることが必要です。

 人間は“動物”であり、動く中で生き、動くことが生きることであるともいえます。太極拳は体を動かしながら、心をめい想(禅)の状態に導いていくことによって、心を整える、まさに現代人にぴったりの心身の健康法なのです。

 私は太極拳を行うと“全身美人”になることができると思っています。美人というと、顔かたちのきれいな女性を想像する方が多いのではないでしょう。しかし“美人”とは、女性に限らず、心も身体も全てが美しい人のことを指すのです。太極拳を続けることによって、みなさんが全身、輝くような美人になってもらえればと思います。

いつでも、どこでも、だれにでも

 

  現代人に最適といわれる太極拳はその歴史が大変古く、数千年前の中国に起源を発します。もともとは武道であったものが長い歴史を経て、およそ三百年ほど前に、健康法として確立されました。

  太極拳の流派は数多くありますが、主なものとして陳式、楊式、呉式、武式、孫式の5流派があります。それぞれに特徴があり、独自の風格を有していますが、次のような共通点が挙げられます。

・鬆静自然――ゆるやかで、自然な動きをする

・気沈丹田――気を丹田に集中する

・軽霊沈穏――軽やかで敏しょうな中に安定感がある

・寓剛於柔――柔らかさの中に強さがある

・連貫協調――初めから終わりまで止まらずに、また一つ一つの技が協調性を持つ

・圓活完整――いきいきとした円の動きで、まとまりがある

  代表的な型の24式簡化太極拳は、難しい動作や激しい動作がなく、スポーツの苦手な人やお年寄り、病後の回復期の人でも無理なく始められます。加えて、道具や特別の服装も必要とせず、左右4 mほどのスペースがあればどこでもできるのです。

このように、いつでも、どこでも、だれにでも、手軽にできて、生涯続けられるのが太極拳の魅力です。

 

 

自らの生命力を高めるために

 

 

  太極拳の“太極”とは、無限、宇宙という意味です。大宇宙は陰と陽から成り立っており、昼が動的な陽であるのに対して、夜は静的な陰です。

  中国哲学では大宇宙に対して、人間を小宇宙と考えます。小宇宙たる人間も、陰と陽のバランスを保つことが必要であり、太極拳は陰と陽、動と静、心と体などのバランスをとくに重んじているのです。

  また、太極拳ではその動作を深く長い呼吸に合わせて行います。呼吸は小宇宙たる人間が大宇宙の工ネルギーを体内に吸収するもので、特にゆったりとした呼吸は心と体を生き生きとさせます。

  私たちは太極拳を行うことによって大宇宙と交流し、自らの生命力を高めていくことができます。しかし、太極拳は特効薬ではありません。今日始めて、すぐ明日に効果の現れるものではないのです。繰り返し繰り返し続けていくところから健康が生まれ、美が生きてくるのです。

 

 

 

参考文献:

  • 林茂美・林誠著.らくらく気功健康法―だれにでも手軽にできて効果抜群.永岡書店,1990
  • 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
  • 安井廣迪著.医学生のための漢方医学【基礎編】.東洋学術出版社,2008
  • 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
  • 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019
王 暁東

王 暁東(おう きょうとう)

現職:御幸病院 漢方研究室 主任研究員

経歴

【経歴】
5代続く中医学医師の家庭に生まれ、幼少の頃より家族から中医学の基礎を教わる。
1993年 河北医科大学中医学院中医学部大卒
総合病院中医科中医師(中医総合科)として勤務                       
1997年 熊本大学医学部第二生理学科に入局、脳・免疫科学の知覚生理学を専攻
2002年 熊本大学大学院医学研究科修士博士連合課程卒 
医学博士取得(西洋医学)
2016年 南京中医薬大学中医学院に入学、中医学臨床基礎・経方(漢方)医学を専攻
2019年 南京中医薬大学博士課程卒
医学博士取得(中医学) 
2004年~ 中国南京中医薬大学 客員教授
2014年~ アメリカ自然医学研究院 研究員
2020年~ 中国河北中医薬大学 客員教授
1999年~ 御幸病院および複数の医療機関に中医師・研究員・講師として勤務

【資格】

・医師(中国国家資格・中医師)
・医学博士(中国・中医学)
・医学博士(日本・西洋医学)
・自然医学療法医師(アメリカ自然医学学会)

【学会役職】

・世界中医薬学会聯合会 経方専業委員会 副会長
・世界中医薬学会聯合会 治未病専門委員会 常務理事
・日本中医協会 副会長

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