HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

王先生から知る 東洋医学の基礎知識

東洋医学療法の紹介コラム㊵ 気功療法⑰ 気功功法の三

気功功法の三    八段錦(はちだんきん)

 

八段錦は800年以上の歴史を持ち、今日まで受け継がれてきた優れた医療体術であり、太極拳と並んで古くから中国の一般の人々に伝わってきた8種類の気功健康法です。

“八”は末広がりの数字であり、“錦”は金銀を使った美しい織りもののことで、結婚式や長寿のお祝いにも使うめでたいものです。元来は“抜断筋”と書かれていましたが、同じ発音でより美しく、おめでたいイメージの“八段錦”に変わったといわれています。

八段錦とは本来は“最も美しい絹織物”という意味で、導引術から派生して、8動作を自分の体調と呼吸に合わせてゆっくり行い、全身の筋肉や経絡をいろいろな方向や角度に伸縮させることによって、血液の循環を良くし、内臓の働きを整えるものです。これらの動作は心身のバランスのとれた健康体を作るために選りすぐられた素晴らしい8種類の運動といえます。

その効果としては身体の運動と平衡機能を改善し、五臓六腑の呼吸や消化などの機能を高め、焦りと緊張などのネガティブな情緒の緩和です。

古来から、長生きのための養生法として受け継がれてきましたが、内臓や神経系の病気など、さまざまな現代病にも効果があるといわれます。

八段錦では、特に呼吸を意識することが重要なポイントです。息を吸うときには内臓を含めた身体全体を緊張させ、逆に息を吐くときには力を抜き(緩和)ゆったりと吐きます。特に息を吐くときのポイントを意識し、気の流れを滞らせないようにしましょう。身体全体の緊張と緩和をゆっくり、交互に行いながら、自分自身の身体と対話をしてみてください。

太極拳に比べると比較的に手軽にできますので、一つだけでも家事や仕事の合間に行って、リフレッシュしましょう。

 

一段錦:双手托天理三焦(そうしゅたくてんりさんしょう)

動作:両手を頭の上に上げて伸ばす動作。

効用:胸や腹の五臓六腑を整え、腹部のぜい肉を落とす。肩こりの防止にもなり

ます。

二段錦:左右開弓似射雕(さゆうかいきゅうししゃちょう)

動作:弓を射るように、両手を横に広げて、胸を伸ばす動作。

効用:呼吸器や心臓の働きを強くするといわれています。また、足腰の強化にもなりつながります。

 

三段錦:調理脾胃須単挙(ちょうりひいすたんきょ)

動作:片手ずつ頭の上に上げ、腹部を斜めに引き伸ばす動作。

効用:脾臓と胃腸を丈夫にするといわれています。また伸ばすことで、とてもリ

ラックスのできる動作です。

 

四段錦:五労七傷往後瞧(ごろうしちしょうおうごしょう)

動作:首をまわして後ろをみる動作。

効用:頚椎から背骨をゆっくり伸ばし回転させる体操です。万病は背骨のゆがみ

から起こるともいわれますが、四段錦は背骨をととのえ、内臓を丈夫にさせます。

慢性的な肉体・精神の疲労回復に効果があります。冷え性や肩こりにも効果があ

ります。また、肩や首のこりもほぐし、目の休養や治療効果もあるといわれてい

ます。

 

五段錦:揺頭擺尾去心火(ようとうはいびきょしんか)

動作:腰を軸にして上体を回転させる動作。

効用:頭頂から尾てい骨までを一直線にして、左右に揺り動かす形で、落ち着か

ない時、イライラするときなどに精神を安定させる効果があるといわれています。

精神的な疲れを解消し、不眠、動悸などに効果があります。また、足腰の強化に

もつながります。

 

六段錦:両手攀足固腎腰(りょうしゅはんそくこじんよう)

動作:片手ずつ上に挙げ、脇を伸ばし、腰を回す動作。

効用:腰と腎臓をととのえ、ぎっくり腰や腰痛および便秘の予防・治療に効果が

あるといわれています。腎臓の機能を高め、腰、腹筋、背筋の強化にもなります。

 

七段錦:攢拳怒目増気力(さんけんどもくぞうきりょく)

動作:こぶしを握り、重心を低くして、斜めに突き出す動作。

効用:しっかりと騎馬立ちをして、目をらんらんと光らせて、拳を強く突き出す

ようにしましょう。足腰の筋力の強化、気力の増加、精神の統一になる効果があ

るといわれています。

 

八段錦:背後七顛百病消(はいごしちてんびゃくびょうしょう)

動作:かかとから全身に振動を与える動作。

効用:かかとから背骨をとおり脳まで、全身に振動を与えることで、中枢神経と

自律神経をマッサージする効果があります。心身をほぐし、血行をよくし、全身

の疲労回復効果があります。脚の指先を使う運動は極めて少ないようですが、八

段錦のつま先で立つ運動は足指のよい訓練になります。また、吸う息に合わせて

肛門を締めることは、気を養う上で非常に大切なことであり、便秘症や痔の予防・

治療にも効果的です。

 

参考文献:

  • 林茂美・林誠著.らくらく気功健康法―だれにでも手軽にできて効果抜群.永岡書店,1990
  • 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
  • 安井廣迪著.医学生のための漢方医学【基礎編】.東洋学術出版社,2008
  • 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
  • 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019
王 暁東

王 暁東(おう きょうとう)

現職:御幸病院 漢方研究室 主任研究員

経歴

【経歴】
5代続く中医学医師の家庭に生まれ、幼少の頃より家族から中医学の基礎を教わる。
1993年 河北医科大学中医学院中医学部大卒
総合病院中医科中医師(中医総合科)として勤務                       
1997年 熊本大学医学部第二生理学科に入局、脳・免疫科学の知覚生理学を専攻
2002年 熊本大学大学院医学研究科修士博士連合課程卒 
医学博士取得(西洋医学)
2016年 南京中医薬大学中医学院に入学、中医学臨床基礎・経方(漢方)医学を専攻
2019年 南京中医薬大学博士課程卒
医学博士取得(中医学) 
2004年~ 中国南京中医薬大学 客員教授
2014年~ アメリカ自然医学研究院 研究員
2020年~ 中国河北中医薬大学 客員教授
1999年~ 御幸病院および複数の医療機関に中医師・研究員・講師として勤務

【資格】

・医師(中国国家資格・中医師)
・医学博士(中国・中医学)
・医学博士(日本・西洋医学)
・自然医学療法医師(アメリカ自然医学学会)

【学会役職】

・世界中医薬学会聯合会 経方専業委員会 副会長
・世界中医薬学会聯合会 治未病専門委員会 常務理事
・日本中医協会 副会長

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