薬膳茶に使う「食薬」とは?
薬膳茶に使う材料には「食材」「茶葉」「中薬」があります。食材は一般的に料理に使われる材料です。茶葉は緑茶や紅茶のような茶の葉っぱのことです。中薬はおいしくて効能があり、生薬などの材料にもなるものを指します。
性質・味・効能をもっており、生薬のなかでも食材・中薬として使えるものをまとめて「食薬」といいます。
食薬を使用する際には、それぞれが持つ「五気」「六味」「昇降(しょうこう)浮沈(ふちん)」「帰(き)経(けい)」の性質と特徴により、使い分ける必要があります。
五気六味(性味)
五気とは食薬における「寒・涼・温・熱・平」の5つの性質を、六味とは食薬がもっている「酸(渋)・苦・甘・辛・鹹(かん)・淡」の6つの味を指しています。伝統的に「四気五味」ともいわれていますが、実際には五気六味があります。働きは下表を参照してください。
味以外では、香りのある食薬もあります。例えば、香菜・紫蘇(しそ)・薄荷(はっか)・セ口リ・みかん・オレンジなどで、このような食薬は精神の安定、気の巡りの促進、食欲増進などの作用があります。
▲紫蘇 |
▲薄荷 |
五気の働き
五気 | 作用 | 主な食薬 |
寒性 |
氷水のように身体を冷やす力が強い 陽盛体質の興奮状態、高熱、化膿症などの異常な熱を改善する食薬 |
苦瓜・桑葉・西瓜・バナナなど |
涼性 |
水道水のような感覚で、寒性より身体を冷やす力は弱い 自覚熱感、のどの渴き、微熱などの異常な熱を改善する食薬 |
セロリ・きゆうり・小麦・茶など |
平性 |
はっきりした寒涼性・温熱性の質を持っていない食薬 寒涼性または温熱性の性質に合わせやすい |
空豆・大豆・トウモロコシ・黒胡麻など |
温性 |
白湯のような感覚で、熱くはない 無気力、汗をかきやすい、めまい、虚弱、冷えを改善する食薬 |
紫蘇・生姜・にら・南瓜・糯米(精米していないもち米)など |
熱性 |
熱い湯のように身体を温める力が強い ひどい虚弱、冷え、痛みなどを改善する食薬 |
唐辛子・肉桂(ニッケイ)・胡椒・乾姜など |
六味の働き
六味 | 作用 | 主な食薬 |
酸味 (渋味) |
酸っぱい味や渋い味。漏れの症状を収斂させ、引き締める |
レモン・ザクロ・梅・五味子など |
苦味 |
排泄させ、湿を乾燥させる |
苦瓜・蒲公英・茶葉・陳皮など |
甘味 |
虚弱を補い、消化機能を調節し、痛みを緩和する |
粳米・長芋・さつま芋・はちみつなど |
辛味 |
発散させ、気の巡りと血の流れを促進し、滋養を促す |
生姜・にら・唐辛子・胡椒など |
鹹味 |
塩辛い味。固まりを軟らかくして散らし、排泄させる |
昆布・海苔・あさり・くらげなど |
淡味 |
味ははっきりしない。津液の代謝を円滑にする |
はと麦・冬瓜・竹葉・淡竹葉など |
昇降浮沈(しょうこうふちん)
「昇降浮沈」は、それぞれ食薬が作用する方向を指しています。
「昇」「浮」は、上昇・発散を意味します。食薬は、体内の陽気を体表に発散させ、体表にとどまる邪気を取り除き、身体の冷えを解消し、詰まっている鼻を通すような効果があります。
「降」「沈」は、下降・排泄を表します。食薬は、体内の熱を取る、のぼせやめまいを鎮める、排尿や排便の促進、精神安定、咳止め、消化促進などの効果があります。
昇・浮 |
辛味・甘味のもの 温性・熱性のもの 花・葉のような軽いもの |
降・沈 |
酸味(渋味)・苦味・鹹味のもの 寒性・涼性のもの 茎・根・実・石・貝類のような重いもの |
帰経(きけい)
「帰経」とは食薬の効能が臓腑や経絡に選択的に作用することを指します。中医学では、色や味によってそれに応じた臓腑に届き、そこで働きやすいという考え方があります。それぞれ適量をとることで、対応する臓腑を養うことにつながります。例えば、心の働きが盛んになって疲れやすくなる夏は、苦味のものをとって心の熱を取り除くことで、心を養うことができるのです。
帰経の対応
五色 | 五味 | 五臓 | 作用 |
青 | 酸 | 肝 | 青色、酸味は肝経に作用しやすく、肝の働きを助ける |
赤 | 苦 | 心 | 赤色、苦味は心経に作用しやすく、心の働きを助ける |
黄 | 甘 | 脾 | 黄色、甘味は脾経に作用しやすく、脾の働きを助ける |
白 | 辛 | 肺 | 白色、辛味は肺経に作用しやすく、肺の働きを助ける |
黑 | 鹹 | 腎 | 黒色、鹹味は腎経に作用しやすく、腎の働きを助ける |
参考文献
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 辰巳洋著.実用中医薬膳学.東洋学術出版社,2008
- 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
- 辰巳洋著.薬膳茶のすべて.株式会社 緑書房,2017
- 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019