気の生理作用
1.栄養作用
気は人体を構成する物質のひとつであり、水殻の精微(※1)などから得た栄養物質を含んでいるため、人体の各部に栄養を与えることができます。気の中の営気に強く現れる作用です。
※1:飲食物の消化によって胃で生成され、脾で運ばれる滋養物質のこと
2.推動作用
臓腑・組織・器官の生理的活動を活発にする作用を指します。血の生成と運行や津液の生成、輪布(※2)および排泄もこの作用による結果です。
※2:循環
3.温煦(おんく)作用
人体の体温を保ち、各種の生理的活動を行う熱源の働きを指します。生理的な「火」の働きに相当します。
4.防御作用
肌表面を保護し外邪の侵入を防御する作用を指します。
5.固摂作用
血や津液などの液体物質が流失するのを防止する作用を指します。血が血管から漏出しないのは、この作用によるものです。
6.気化作用
飲食物から血や津液を生成したり、津液を輸布して尿や汗などに変化させる作用を指します。精と気の変換を指す場合もあります。
気の病証
気の病変は様々な疾病の大きな要因となっており、広範に及びます。
具体的には「気虚」「気陥」「気滞」「気逆」「気脱」などの病証があります。
「気虚」
「気虚」は気の不足を指します。
気は脾胃の水穀の気・肺の天陽の気(大気)・腎の先天の気の三者が合してなったものであり、それらの臓腑における気の産生機能が低下すると気虚が生じます。
気虚になると、気の栄養・推動・温煦・防御・固摂・気化の諸作用に影響が及びます。
一般的な気虚の症侯は、倦怠感・無力感・息切れ・声に力がない・自汗・脈細軟無力などです。
各臓腑の気虚の病証については別途、解説いたします。
なお、大量発汗や大量出血で急激に津液や血が失われると、それに伴って気も失われます。これを「気脱」あるいは「気随血脱」といいます。
「気陷」
「気陷」は気が虚し、その昇挙能力が失われる状態を指します。
具体的には、気虚の症侯のほかに下腹部の下墜感・内臓下垂・脱肛・長期の下痢などが現れます。
「気滞」
「気滞」は気の流れが滞り、鬱滞することを指します。
気滞は、精神情緒の抑うつ・飲食の不摂生・外邪の侵襲・外傷など多くの原因によって気機が失調することによって生じます。
気滞になると、気が通じないために疼痛を生じ、鬱滞するために脹悶感が出現します。
気滞による疼痛の特徴は、痛みの程度が経時的に増減し、精神的要素によっても影響を受け、疼痛部位が固定しないことです。
「気逆」
「気逆」は気機の昇降が失調し、気が上逆することを指します。
体の上部(頭部など)に急激に現れる症状は気逆によるものが多く、具体的には肝気上逆による頭痛・眩暈・易怒・卒倒・吐血など、胃気上逆によるげっぷ・胸やけ・悪心・しゃっくりなど、肺気上逆による咳・呼吸困難などがあります。
参考文献:
- 林茂美・林誠著.らくらく気功健康法―だれにでも手軽にできて効果抜群.永岡書店,1990
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 安井廣迪著.医学生のための漢方医学【基礎編】.東洋学術出版社,2008
- 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
- 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019