HOLISTIC HEALTH JOURNAL

ホリスティックヘルス ジャーナル

超高齢時代をどう生きるか~あなたに届けるキーワード~

第49回超高齢時代をどう生きるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「心の砦」

~半出家の試み~

 

 ローマ帝国五賢帝の最後マルクス・アウレリウス(在位161年~180年)は哲人皇帝として名高く「自省録」が残されています。これは日々の瞑想の中での自己対話をメモとして少しずつ書き溜められたもので、英訳ではMeditation(瞑想・思索)となっています。

 怒りや悲しみなどの情念をいかに陶冶するかがストア主義哲学の大きなテーマです。アウレリウスは、自分自身の魂の中にまさる平和で閑寂な隠家(かくれや)を見出すことはできないと述べています。それは、自己の感情を正確に観察し、外的な影響を制御し歪んだ判断に加担しない境地であり、堅固な城砦に擬したのです。

 まず「人生即主観」との法則があります。事物は魂に触れることなく外側に静かに立っているだけだが、事物をどのように受け止めるのかという我々の判断の仕方によって我々を悩ます悪や障害が発生するのであること。ただ、この判断の仕方を訓練することによって我々は煩わしさから逃れることができるとしました。次に「宇宙即変化」との法則があります。自分が見ているところのものは全て瞬く間に変化して存在しなくなるのだから、無用な悩みの種に対して無関心であれ、と言うのです。これらの法則を絶えず参照することで心の平安を回復するように、誤謬に陥りやすい人間の習慣化した思考様式を改変し進歩していく軌跡が「自省録」であるとも言えます。思考とは内的な対話ですから、絶えず法則を念頭に浮かべ内的な自己対話があらぬ方向に逸れていかないようにコントロールしていることを確認するためにメモとして書かれたのかもしれません。「宇宙即変化」という法則にありながら、それは全くの偶然ではなく一定の秩序があり、人間も宇宙の秩序(摂理)を信じて変な行動をしなければ、この世も相互に調和するはずだ、との確信が確認されています。

さて、私の人生を振り返った場合、二つの死の恐怖に翻弄されてきた感じがあります。

一つは、社会的な死です。他人の目が気になる、他人の評価に一喜一憂するという承認欲求は、この社会で、生き延びていくための防衛本能かもしれません。しかし、他人の心をコントロールすることはできません。徒に自分が疲弊し傷つくだけでした。

もう一つは、肉体の死です。社会的な死を恐れる承認欲求も、社会で生きていけなければ肉体的な生命も維持できないかもしれないという、肉体の死への恐怖に繋がっているのかもしれません。

しかし、誕生して成長し、徐々に老化しながら死に至るというプロセスは、いわば物質的な現象ですので、如何ともし難いものです。死ねば、感覚もなくなるわけですから、そこに恐怖も痛みも無いはずなのです。

何が失われるのか?それは、私という社会的存在です。それは何か?生まれてからの戸籍や住民票の記載から始まり、結局は、過去のデータの積み重ねに過ぎず、他人の評価の中に存在する私のイメージかもしれません。他人の有する私のイメージなど、コントロールできませんし、そもそも早晩消えてゆくだけのものに過ぎません。

すると、承認欲求も肉体の死への恐怖も、根源は同じ「感情」ということかもしれません。

 これらに対処するにはどうしたら良いのか?私は隙間時間を利用した瞑想の中で「感情」の自己観察を試みています。怒り、怖れ、悲しみなどが発生すると、私の場合、鳩尾辺りがキュッと締め付けられます。それを淡々と観察するのです。すると、「感情」というのも単なる肉体の物質的現象に過ぎないことに気づきます。良いも悪いもないのです。

自然現象も、他人の心も、自分の感情も私の心という鏡の中で流れる映像に過ぎないことが「人生即主観」なのでしょう。眼や耳などが自然に働いて現れる世界の中では、自分の身体も第三者として見る対象に過ぎないのです。鏡の中の映像を世間の常識(?)に則した解釈で勝手に苦しんでいた自分に気付けば、この映像をどう解釈するも自由であることに気付きます。先入観を持たず映像の中で客観的に自分に与えられようとしている役回りをたとえそれが端役であっても喜んで受け容れ演じ切ることが、自由と必然とが一致する心穏やかな生き方に繋がるように思います(宇宙の摂理にあっては主役・端役の区別は無いでしょうが)。

 この解釈変更の作業は、山中に籠らないでも、この日常の中で、自宅でも喫茶店でも職場でも、ちょっとした瞑想による自己対話の積み重ねで行うことができます。このことを私は「半出家」として実践したいと思います。

(初出:株式会社ぎょうせい月刊「税」2026年10月号)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
↑
© Holistic Health Lab All rights reserved.