前回のコラムでは、「職場の規範」について考えてきました。
職場には様々な、多くは暗黙のルールとしての規範があり、そこで働く人は無意識にそれを感じ取り、その規範に準拠した行動を選択しています。
しかし、その規範が生産的でないとしたらどうでしょうか。
私たちは「おかしい」と感じながらも、なぜそれを変えられないのでしょうか。
ルールを変えても元に戻る。
新しい仕組みも形骸化する。
その背景には、“もっと深い前提”が存在しています。
エドガー・シャイン博士は組織文化を3層で説明しています。
・表層(アーティファクト)
・中層(価値観)
・深層(基本的仮定)

非生産的規範とは、この深層の前提が行動として現れたものです。
だからこそ、ルールだけを変えても元に戻るのです。
■非生産的な規範の事例(抜粋)
「前例踏襲が絶対」
→ 改善が止まる
「忙しさ=価値」
→ 成果ではなく労働量が評価される
「上司絶対」
→ 心理的安全性が失われる
「失敗は隠す」
→ 学習しない組織になる
■本質的な整理として
これらの非生産的規範には共通点があります、それは本来の目的(患者価値・安全・質)」ではなく「組織内の安心・維持・安定感」が優先されている点です
そこで・・・
本来職場の規範は無意識にやっていることが殆どなので、
規範を変えたいときには
先ずは規範の“見える化”(可視化)をやるべきだと思われます。

■変革のステップ(例)
1 見える化
2 機能評価
3 新規範設計
4 リーダー行動
5 評価制度
6 物語化
進め方(例)
STEP―1「うちの職場の“暗黙ルール”を書き出す」
※無意識な側面が大きいので難しいかもしれませんが、なかなか思いつかない場合は、他部門・他職種・入職が浅いスタッフ等から見た特徴的な行動などを参考にすると良いかもしれません。
- 例:
・忙しい人が評価される
・〇〇〇の専門職には逆らえない
・ミスは隠す (できるだけ表面に出さずに処理する)
・同じ職種内でだけで問題を解決するのが良いことだ
※ポイント →善悪ではなく“事実”として出す
STEP―2 「機能しているか?」で評価する
■問いの例
- 患者価値に貢献しているか?
- 医療の質は高まるか?
- 安全性を高めているか?
- 人材が育つか?
- 協働性が高まるか?
※ここで初めて「残す規範」と「壊す規範」を分けることができます。
■「残す規範」と「壊す規範」の現場での見抜き方(シンプルな問いかけ)
以下の問いかけで
「それは“患者のため”か、“自分たちの都合”か?」
「それは“成果”に結びついているか?」
「それは“説明可能な合理性”があるか?」
「成果とコストのバランスはどうか?」
STEP―3「“新しい規範・新しく創造する規範”を設計する」
壊すだけではダメですので、新しい規範を明確に定義することが重要です
例
| 旧規範 | 創造する規範 |
|---|---|
| 上司・医師が絶対である | お互いの専門性ベースで対話する |
| 忙しさ=価値 | 患者アウトカム×効率=価値と考えて行動する |
| ミスは隠す | ミスは学習資源・成長の梃だから活用する |
| 仕事=業務だから繰り返す | 仕事は学習過程だから成長する |
ポイント →できるだけ行動レベルで定義する(抽象的な表現はNGです)
STEP―4 「“代表的な行動(象徴行動)”をリーダーが示す」
実際の行動で示すことが重要です(規範は行動ですから)
■なぜ重要か
人は「言葉」ではなく
“誰が何をしたか(行動したか)”で判断する
■具体例
- リーダーが自分のミスを公開する
- 医師が看護師やその他の専門家に意見を求める
- 師長が(職場リーダーが) 定時退勤者へ肯定的に声をかける
※これが規範の再設定スタート
STEP―5「 評価・仕組みを変える(最重要)」
ここを変えないと、新しい規範が定着しないかもしれません
■例
- 発言した人を評価する
- 改善提案数を成果指標に入れる
- チーム成果を評価する
理屈ではなく“評価・報酬構造”で文化は決まる
※行動心理学者B・F・スキナー (1904–1990)
「行動は、その行動がもたらす結果によって強化される」
※(行動は、その行動のあとに起きた“いいこと”によって続きやすくなる)
「人は“報われる行動”を繰り返す」
※罰を受けた人は、罰を避ける方法を学ぶだけである
STEP―6 「成功体験を“物語化”する」
・あまり欲張らず、一つの規範変革からスタートする
・モデル病棟・モデル部門からスタートする
繰り返すことで成功体験を生む
そして物語として(ストーリーとして)伝えていく

規範は“対話と実践”によって創られ、組織全体へと広がっていく
皆さんの職場で、非生産的な規範はありますか?
それを変えたいと感じていますか?
先ずはダイアローグ的な話し合いからスタートしてみて下さい
ここまで非生産的規範を見てきました。
では逆に、生産的な規範とは何か?
私の体験的な事例をご紹介したいと思います
独り言
私がコンサルタント会社に勤務していた頃、そこには独特の“規範”がありました。
一般的な企業ではあまり見られない、少し個性的な規範・文化だったように思います。
その中でも、私が特に素晴らしいと感じていたのは、
「人を育てる」
「知的好奇心を共有する」
「お互いに学び合う」
そんな空気が、組織の中に自然に存在していたことでした。
若い頃の私は、とにかく学ぶことに必死でした。
大先輩や師匠の“カバン持ち”のようにして、講座やコンサルティングの現場について回っていました。
今振り返ると、まるで“学習ストーカー”のようでしたね(笑)。
しかし、そこで見たこと、感じたことを、とにかくノートに書き続けました。
現場の空気、人の表情、言葉の使い方、クライアント担当者との関係性の築き方 等
「知識」だけではなく、“肌感覚”として学ぼうとしていたのだと思います。
やがて自分自身もチームを持ち、マネジメントを担う立場になりました。
そんなある日、若手コンサルタントのメンバー数名から、
「財務会計を学びたい」
という相談を受けました。
ただ、私は「財務だけ」を学んでも、本当の意味で価値は生まれないように感じていました。
そもそも財務だけ学んでも面白味を感じないし、数字だけでは、人は動かない
組織も変わらない ・・・そんな思いもあり
私は、こんな提案をしました。
「せっかくなら、財務だけではなく、行動科学やマネジメントも一緒に学べるプログラムを、みんなで創ってみませんか?」
すると、メンバーたちは、
「それは面白そうですね」と、目を輝かせながら賛同してくれました。
そこから、私たちの小さな挑戦が始まりました。
月に2日ほど。
日曜日や祝日の時間を使い、誰もいない本社オフィスに集まる。
静かなフロアに、議論する声と笑い声だけが響く。
財務。
戦略。
マーケティング。
そして、人が学び、成長していくための行動科学的なアプローチの
シミュレーションプログラムとしての統合。
それらをどうすれば“体験的”に学べるのか。
試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ形にしていきました。
約1年半の歳月をかけてその財務と戦略・マーケティングを体験的に学べる“シミュレーション学習プログラム”は完成しました。
私は、自分が持っている知識や経験を、できる限りメンバーへ伝えていきました。
でも今振り返ると、教えていたのは私の方なのに、一番学んでいたのも、実は私自身だったように思います。
人は、人に教えることで、初めて本当に深く学ぶのかもしれません。
“Learning by Teaching”
あの頃の日曜日の静かなオフィスを思い出すたびに、今でもそう感じます。







