前回の部屋では、組織開発の研究者エドガー・シャインの考えをもとに、
人が新しいチームに参加するときに抱える「4つの精神的な懸念」について紹介しました。
・自分の役割は何なのか
・どれくらい影響力を持てるのか
・成長や達成を得られるのか
・どこまで親しく関われるのか
新人やキャリア採用の職員は、このような不安を抱えながら新しい職場に入ってきます。
その不安を乗り越えるために人がまず学ぶのは「仕事の技術」ではありません。
それは 職場の規範(Normノーム) です。

規範とは簡単に言えば
「この職場では、どのように行動するのが普通なのか」
という暗黙のルールです。(泥臭く言うと“職場の掟”のようなものです)
たとえば廊下ですれ違ったときの
「お疲れ様です」という一言にも実は職場の規範が現れています。
・声をかける人
・目を合わせる人
・軽く会釈をする人
その何気ない行動の積み重ねが「この職場らしさ」をつくっています。

挨拶の仕方ひとつとっても、そこには固有の職場の規範が存在します。
職場の規範が重視する4つの視点
職場の規範は、大きく次の4つの視点で判断されることが多いです。
- 信頼をつくる行動であるか
- 挨拶の仕方(声の大きさ、タイミング、相手を見るか)
- 約束や期限を守る
- 報告・連絡・相談のタイミング
→「この人は安心して仕事を任せられる」と感じてもらえるか。
- 周囲の仕事をスムーズにする行動であるか
- 会議の入り方・話し方
- メールやチャットの書き方
- 共有スペースの使い方
→自分の行動が他の人の作業効率にどう影響するか。
- 相手の立場や感情への配慮があるか
- 依頼の仕方、断り方
- 注意するときの言葉選び
- 忙しそうな人への声のかけ方
→「気持ちよく働ける環境を壊さないか」という視点。
- 組織の文化・価値観に合っているか
- 服装や身だしなみ
- 休憩の取り方
- 上司・同僚との距離感
→その組織ごとに「暗黙の了解」が違うため、ここが最も“職場ごとに変わる”部分。

Lunchの仕方ひとつとっても職場の規範が存在します。
たとえば医療や介護の現場では、次のような規範が存在しているかもしれません・・
↓ ↓ ↓
・忙しいときは自然に手を貸し合う
・患者さんの前では互いを否定しない
・困ったら一人で抱え込まず相談する
・申し送りでは大事な情報を簡潔に伝える
・新人の質問にはできるだけ答える
これらはマニュアルに書かれているとは限りません。
(ほとんどの場合明示されていません)
しかし職場の中では「当たり前」として共有されています。
新しく入った人は、最初からこれを理解しているわけではありません。
むしろ多くの場合、周囲の様子を観察しながら少しずつ学んでいきます。
たとえば
「この職場ではどのタイミングで発言してよいのだろう」
「忙しいときに手伝いに入ってよいのだろうか」
「どこまで質問してよいのだろう」
そんなことを考えながら、周囲の人の行動を見て判断していくのです。
つまり新人は、仕事を覚える前に
「この職場でどう振る舞えばよいのか」
を学んでいると言ってもよいでしょう。
もし職場の規範が見えにくいと、新しく入った人は戸惑います。
自分の行動が合っているのか分からず、不安や遠慮が生まれます。
その結果
・発言しなくなる
・質問できなくなる
・関わりを避けるようになる
こうした状態が続くと、その人はチームの一員として十分に力を発揮できません。
一方、良いチームには特徴があります。
それは 規範が行動として自然に示されている ということです。
たとえば
・先輩が自然に新人に声をかける
・困っている人に誰かが手を貸す
・ミスが起きても責めるのではなく振り返る
こうした行動が繰り返されることで
「この職場ではこういう働き方をするのだな」
という理解が新人の中に生まれていきます。
職場の文化は、言葉で教えるだけでは生まれません。
日々の行動の積み重ねによって形づくられていきます。
4月になると、多くの新人が職場に入ってきます。
その人たちは、まだこの職場の規範を知りません。
だからこそ大切なのは「新人が規範を学ぶこと」だけではなく
私たち自身が、どんな規範を示しているのか
ということなのかもしれません。
私たちの何気ない行動が、この職場の文化を静かにつくっているのです。
もしかすると私たちは新人に仕事を教える前に
「この職場の文化」を行動で示しているのかもしれません。
独り言
~規範を学ぶ体験~
私がコンサルタントとして仕事をする中で、
「組織の規範は、言葉ではなく体験から学ばれるのだ」と感じた出来事があります。
それは200年~2007年頃のことです。
病院マネジャー研修の依頼を受け、東京都渋谷区初台にあるリハビリテーションを専門にする病院を訪れました。事前の打ち合わせでは女性の院長と面談しましたが、
そのときの印象は、建物も綺麗で「まあ、普通の病院かな」という程度のものでした。
しかし、研修当日になって少し驚く出来事がありました。
会議室で研修の準備をしていると、参加するスタッフが次々と入室してきました。
そのとき、オブザーバーとして参加していた理事長(男性・医師)に対して、皆が
「石川さん、こんにちは」
「石川さんも参加されるのですか」と声をかけているのです。
普通、病院では「理事長」「院長」「〇〇先生」といった役職名等で呼ばれることが多いものです。しかしこの病院では、理事長を含めて皆が「さんづけ」で呼び合っていました。
この光景は日頃、病院での呼称を聞き慣れ・見慣れていた私にとっては、少し不思議な光景でした。
そこで後日、研修の事後報告に伺った際に理事長へ質問しました。
「こちらの病院では、皆さん“さんづけ”で呼び合うのですね?」
すると理事長はこう答えました。
「この病院はリハビリテーションを主体としています。
リハビリは多職種協働ができなければ成立しません。
だからこそ、呼称や制服など、ヒエラルキーや権威的なものを感じさせるものはできるだけ減らし、フラットなチーム医療ができる環境をつくっているのです。」
その言葉を聞いたとき、私はとても納得しました。

さらに後日、この法人が運営する船橋の病院を見学する機会がありました。
そこでまた驚きました。
働いているスタッフ全員が白衣ではなく、
同じポロシャツのような(スクラブ型のユニフォーム)を着ていたのです。
医師も、看護師も、セラピストも。
その光景を見ながら私は思いました。
組織の文化やチームの在り方は、
理念やスローガンだけでつくられるのではない。
呼び方、服装、振る舞いといった日常の小さなルール(規範)が、
その組織が目指すチームの姿を形づくっているのだと。
この病院の基本的な考えや組織文化・規範が全ての病院に合うとは思いませんが、
この病院にとっては合っていた(Fitしていた)のでしょう。
その上で、私の学びは
「組織の規範は体験を通して学ばれる」
ということを実感した、出来事でした。

皆さんの職場にはどの様な規範がありますか?
それは生産的な規範ですか?
それとも非生産的な規範ですか?






