薬膳茶
お茶は古来、一般市民、王室などの身分を問わず多くの人に愛され、中国からアジア、ヨ一ロッパと世界に広がっていきました。それとともに、来客時などにお茶を入れ、茶器を鑑賞し、お茶の色や香りとともに味を楽しみながら話をするという文化も根づいたのです。
高齡化社会を迎えた現代、健康志向がより一層高まり、中医薬膳学の知識が普及するにつれて「薬膳茶」も注目されるようになりました。薬膳茶の材料には、野菜、果物、木の実、さらには薬草など多くの種類があり、その生産地もさまさまです。また、伝統的な緑茶、白茶、黄茶、黑茶、紅茶、青茶といった茶葉といろいろな材料を組み合わせることで、さらに多くの薬膳茶を簡単に作ることができます。
薬膳茶の知識を身につければ生活はもっと豊かになり、楽しく健康的に過ごすことができようになると思います。
薬膳茶とは?
古代中国から受け継がれた「薬膳茶」
「薬膳茶」は「薬」と「茶」の2つの意味合いをもつ飲み物のことで、「薬茶」ともよばれています。
中国最古の漢字字典『說(せつ)文(もん)解(かい)字(じ)』では「薬」を「治病(ちびょう)の草(くさ)」と説明しています。古来、多くの草が病気を治すための薬として用いられてきましたが、そのなかには香りがよく、甘みはもちろんのこと、さまざまな味わいを持つものがありました。花や葉、果実、茎、根茎など部位によっても味わいや効果に違いがあることが知られています。中国では、それらを加工して飲み物として楽しんできた歷史があります。
このように薬膳茶でいう「薬」は、中薬 (生薬)のように医療で使われるものに限定するものではなく、その効能とおいしさを求めて人びとの間で長く受け継がれてきたものを指しています。
一方、「茶」は中国最古の辞典『爾雅(じが)釈木(しゃくぼく)』で「苦茶(くちゃ)」と書かれており、茶の若葉や茎を加工してから作られる飲み物です。現代の日本茶と同じと考えてもよいでしょう。
中国では古来から、朝起きて、まずやらなければならないとされていることがあります。それは「柴(薪)・米・油・塩・醤・酢・茶」という日常の食生活に欠かせない7つのものを確認することです。「茶」が生活の中で、如何に重要な役割を果たしているかがわかります。
また、箸やスプーンなどを使わず、そのまま飲めるものも「茶」と定義づけられています。
例えば茶と牛乳を合わせて作った「ミルク茶」、小麦粉を加工した「麺(めん)茶(ちゃ)」、野菜・果物やジュースを合わせた「果(か)茶(ちゃ)」などもそれぞれ効能をもつ薬膳茶です。
薬膳茶には「薬」と「茶」を合わせたものもあります。唐の時代に「茶(ちゃ)聖(せい)」と称された陸羽(733~804年) は「茶(ちゃ)経(きょう)」で「茶は葱(ねぎ)や生姜(しょうきょう)、棗(なつめ)、橘皮(きっぴ)、山茱萸(さんしゅゆ)、薄荷(はっか)などと一緒に煮てから飲む」と記しています。これらは今でいう薬膳茶のような組み合わせです。
これらに加え、金銀花、薄荷、菊花などの「薬」のみを煎じたものもあります。これは中薬(生薬)のような煎じ薬より、おいしく味わえて飲みやすく、一般のお茶に比べて様々な効能があるため、 健康に対する意識が高い現代社会にぴったりの飲み物といえるでしょう。
まとめ
・薬膳茶は、さまざまな効能と茶のおいしさを併せ持つもの
・箸やスプーンなどを使わずに飲めるものはすべて「茶」
・薬膳茶でいう「薬」は中薬(生薬)にとどまらず、数多くの種類がある
・薬のみを煎じた場合でも、薬膳茶は漢方の煎じ薬より飲みやすい
参考文献
- 関口善太著.〈イラスト図解〉東洋医学のしくみ.日本実業出版社,2003
- 辰巳洋著.実用中医薬膳学.東洋学術出版社,2008
- 平馬直樹・浅川要・辰巳洋著.オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書.株式会社ナツメ社,2014
- 辰巳洋著.薬膳茶のすべて.株式会社 緑書房,2017
- 仙頭正四郎著.最新 カラー図解 東洋医学 基本としくみ.株式会社西東社,2019